食文化における素朴な疑問。



「なあ、前から聞きたかったんだけど、いい?」
「何だ?」
 ダブルベッドの上、情事の後。
 枕を独り占めして抱える黒崎が、ややあどけない目をして尋ねた。
 前から聞きたかったことがこの青年にもあるものなんだな、と、白石は小さく笑みを浮かべた。もっぱら彼が興味を持つのは、餌食となるシロサギたちの情報ばかりかと思っていたから、当然といえば当然だ。
「あんたってさ、東京と名古屋を行ったり来たりしてるんだろ?」
「ああ」
 意外だ、と思うと同時に、嬉しいと感じる。
 彼にとっては、自分も『食らう』対象にすぎないと思っていたのだが、それなりに興味を持ってはいるらしい。
「まあ、東京はそれなりに楽しいが、名古屋の方が今のところのホームグラウンドだからな。どっちかといえば、あっちの仕事の方が多いし」
「ふうん」
「でも、それがどうした?」
「あのさ。名古屋の方って、きしめんとかあるじゃん」
「ああ。あるな」
「美味い?」
「……は?」
 あまりの突拍子もない問いに、思わず白石の口がぽかんと開く。
「いや、美味いの?」
「あ、ああ。……まあ、美味いな。店によるが」
「あとさ、あんかけスパゲッティとかって奴。あれは?」
「あれは、あー……人それぞれで」
「それから、味噌煮込みうどん。あれって美味い?」
「……あれは大体美味い……なあ」
「あとさあとさ。甘口バナナスパってあるのマジ? 美味いの?」
「あれはやめとけ」
「それからさ、えーっと……小倉トーストだっけ。焼いたパンに餡子乗っけて食う奴あれも」
「ちょっと待て」
 いや本当に。ちょっと待て。
 引きつった顔をして、黒崎の顔を注意深く見つめれば。
 やたらきらきらと目が輝いていて、その表情はいつもよりも明るくて。
 …………。
 もしかして。
「……お前、もしかしなくても、あっちの食い物に興味あるのか?」
「うん」
 即答である。
 こちらに対しての興味と思ったのが間違いだった。
 てっきり、自分に落ちてくれたのかと儚い期待を抱いていたのに。
「だってあんたは結局シロサギでしかないし。むしろあんた自身よりも食い物の方が面白そうだし。名古屋って」
 ばっさりと容赦のない言葉で切り捨てる黒崎に、白石は改めてため息をついた。

 ああ、彼が振り向いてくれるのは何時の日か。
 白石の苦悩は、まだまだ続きそうである。



 ……クロちゃんひどっ!(苦笑
 名古屋ネタはやってみたかったです。
 つーか白石さん、どこまで名古屋グルメをご存知なのか判らないんですけどね。
 ちなみにあんかけスパは友人に連れてってもらったけど、甘口バナナスパは食べたことありません。