彼(彼女)が免許を取ったら



「とゆーわけで、免許を取りましたっ」
 しゅたっ、と真新しい免許証を印籠のようにかざし、三島ゆかりが満面の笑顔で報告した。
 何でも、懇々と親を説得して許可を取り、こつこつとお小遣いを貯めた金で教習所に通って、やっと取得までこぎつけた、ということらしい。
「ほー。そいつはよかった」
「頑張ったもんね、ゆかり」
 思いっきりどうでもいい顔をした黒崎と、にこにこと姉のような慈愛に満ちた笑みの氷柱が、それぞれコメントした。
「これから、どんどん練習しようと思ってるの。……でも」
「?」
 ふと、弱々しく俯くゆかりに、二人揃って首をかしげた。
 なぜか、妙に同じポーズを取ったりするのは、どうやら根本的に似ている擬似兄妹だからかもしれない。
「パパもママも、運転させてくれないの。二人とも車持ってるんだけど、普段から使ってるから、練習もさせてくれなくて」
「へえ」
 相槌を打つ氷柱。
 二人の女を交互に見た黒崎が、ちらりと自分が乗っているフォードを見やって口を開く。
「つまり、練習するから、おれの車を運転させてくれ、ってことか?」
「そうなんですぅ。こういうの、友達に相談出来なくて」
「そういえば、ゆかりの友達って車持ってる子少ないのよね」
 心底困ったようなゆかりに、同情する氷柱が頷いた。
 さて、どうしたものか。
 確かに自分の車はボロいが、こと運転に至っては何ら支障は無い。何せ、氷柱から『危なっかしい』と文句をつけられるような荒い運転をしているが、今のところ廃車を勧められたことはないのだ。

 しばし考え、やがて。
「――わかった。運転させてやるよ」
 黒崎は、あっさりと結論を出した。
「本当ですかぁ?!」
「ただし、おれを助手席に乗せること。一応、あんたは初心者なんだから、監視するからな」
 ぱっと輝くようなゆかりの笑顔に、黒崎は苦笑しながら告げた。その横で、氷柱がちょいちょいと黒いコートの袖を引っ張る。
「ねぇ、あたしも乗せてってよ」
「いいけど、お前普免持ってたっけ?」
「……あたし原付だけ……」
「んじゃ、お前後部な」
 ひそひそと二人で言い合って、練習ドライブが始まった。


 ――が、すぐに二人は後悔するコトになる。


「だあああっ、ブレーキとアクセル逆!」
「あ、あれ? クラッチどこだっけ」
「ぎゃあああ、前見て前!!!」

 数十分後。
 悪魔のようなドライビングテクニックを披露したゆかりが、心配そうに二人を見ていた。
 黒崎は脂汗をだらだらと流しているだけだが、氷柱に至っては背中を向けて蹲り、なにやら暗い声でぶつぶつ呟いている。
「お、お前……運転むちゃくちゃ……」
「めのまえにくるまがめのまえにくるまがめのまえにくるまが」
「あの……二人とも大丈夫……あ」
「……どした?」
 何かに気が付いたらしいゆかりが、さらにあちこちぶつけたフォードに近づいて。
「……ごめんなさい、サイドミラー畳んだままでしたぁ」
 くい、とサイドミラーを直して、てへ、と悪戯っぽく笑う彼女に。

「お前、車運転するな」

 黒崎と氷柱が同時に叫んだのは、言うまでも無い。


 その後。
 氷柱が車に乗るたびに、突然真っ青になって奇声を上げるようになった、というのは、また別のお話。



  元ネタはあずまんがでした(爆笑
  つうか、ゆかりちゃんならこれくらいやりそうじゃない?