手紙 窓の外の大きな木が、鮮やかな緑をますます濃くしている。 それを見上げ、白石は薄く笑った。 外は今、どうなっているのだろうか。 変わらない日々が続いているのだろうか。 ――彼は。 あの寂しがり屋の癖に手懐けるのに苦労した猫は、変わらず笑っているだろうか。 「白石さーん」 背後から掛かってきた声に、振り返って笑いかけた。 「――ああ。藤見か」 「また、手紙書いてるんスか?」 「まあな」 近づいて手元を覗き込んできた若者に、白石は苦笑した。 「どうしたんだ?」 「いや、大した事じゃないんスよ」 藤見はちょっと恥ずかしそうに脱色した髪をかき混ぜる。 それから、ややしんみりした表情になって、ぽつりと呟いた。 「こないだ、面会に、親父が来たんス」 「うん」 「親父、また泣きながら馬鹿野郎だの何だの怒鳴って。付き添いの刑務官のおっさんが困ってました」 「そうか。……お前の面会、いつもそんなだな」 正直に感想を言うと、困ったように笑って続けた。 「戻ってきたら、親父の友達の所で働け、って言ってました。でも、その友達って酒屋だから、すんげぇ大変なんじゃないかって思うと……嫌なんスよね」 「何言ってるんだ。お前のためなんだろう?」 「それは判るんスけど」 「判ってるならいいじゃないか。今度は、ちゃんと親父さんたちを安心させてやれ」 「……そっスね」 真っ直ぐ視線を向けて言うと、藤見は少し苦い笑みを浮かべ、頷いた。 「あいつ、どんな気持ちだったんだろ」 ふと、窓の外を眺めながら呟いた藤見に反応して、白石は一旦戻した視線を向けた。 「……あいつ?」 「――高校の時、一緒になった奴なんスけど。……俺、そいつに騙されて捕まったって話、前にしたでしょ?」 「ああ」 その誰かが、判ってしまったから。敢えて追求もしない。 「こっち来てから、過去の話とかいろいろ調べてて。……そしたら、あいつの家族のことが新聞に載ってて」 白石は何も言わずに、視線だけで続きを促した。 「あいつが、どんな気持ちだったんだろうって。俺、あの時は滅茶苦茶腹が立って、裏切られた気持ちになって、つい『ぶっ殺してやる』なんて言ったけど。……本当は、俺が詐欺の手伝いしてるのを見ていたくなかったんだと思うんス」 「……多分、そうかもしれないな」 「白石さん?」 「自分の友達が、犯罪に手を染めてたなんてことを知ったら、辛いと思うよ」 「……そう、だと思います」 「そいつを、許せるか?」 投げかけた疑問は、藤見にとってどんな答えを導くのか。 「……わかんないっス。あいつを許せるのか、どうか」 でも、と顔を上げて、精一杯真剣な目で、続ける。 「俺を止めてくれたのは、あいつだから。それだけは忘れないようにしたいんス」 「……それでいいさ」 そうだ。俺も同じ気持ちなのだ。 白石は心の中であの猫に言う。 あの日、多数の警官たちに囲まれた自分を、泣きそうな顔で見ていた彼に。 止めてくれたのは、お前だから。 俺はお前を恨んじゃいない。 だから、今は離れ離れでも、必ず戻るからと声には出さずに告げた。 もう一度、最初からやり直せるように。 「ところで、白石さんって」 「ん?」 じぃ、とこちらの手元を覗き込む藤見に、何だろうかと問い掛ける。 「いつも思ってたんスけど、手紙書いてる相手って誰っスか」 「恋人だよ」 さらりと答えると、にやあ、と楽しそうな笑みになる。 ころころと変わる表情は、歳相応以上に幼く感じて、つい苦笑を漏らしてしまう。 「へー。美人っスか?」 「美人だぜ。ちょっと手懐けるのが苦労する猫だがな」 「……は?」 ぽかん、と間抜けに口を開ける藤見にくつくつと笑いながら、白石は書きかけの手紙をそっと懐に仕舞いこむ。 待ってろ。 必ず、お前の元に戻ってくるから。 窓の外で青々と茂る大木を眺めながら、白石は祈るように囁いた。 未来捏造白石さん視点。 ごごごごごめん実は塀の中の人(既に前の分で判りますか) 何気なく藤見くん初登場でした。 そして彼は白石さんの恋人が自分の友達だと気が付いていない模様。 まあそれも人生。頑張れ藤見(何 |